湯のみを近づけると、ほうじ茶の香りが立ちます。ふだんは「香ばしい」のひと言で足りてしまう香りですが、その多くは、茶葉に火を入れたときに新しく生まれたものです。
石川県の試験場と大学が棒茶を180℃から220℃で焙じた研究があり、農研機構には焙煎した茶の香りを成分ごとに分けた報告があります。二つを並べて読むと、焙煎中に茶葉で起きる変化が、少しずつ具体的になっていきます。
「焙じる」という言葉が指している動作
日本茶インストラクター協会の基礎解説では、焙じるという言葉を、鍋などに食品を入れて水分がなくなるまで熱すること、またあぶり焦がすことと説明しています。ほうじ茶は煎茶や番茶などを高熱で焙じて作られ、特別な材料を使っているわけではありません。
農林水産省も、ほうじ茶を煎茶・番茶を強火で炒ったお茶とし、独特の香ばしい香りと、あっさりしたのどごしを特徴に挙げています。何かを足す工程ではなく、すでに茶葉の中にあるものを熱で変える工程だということになります。
アミノ酸と糖が、熱で香りに変わる
棒茶の焙煎を扱った研究は、焙煎が緑茶の中のアミノ酸と糖から揮発性の成分を生み出すとしています。アミノ酸と還元糖からピラジン類が生まれる反応はメイラード反応と呼ばれ、その速さは温度に左右されるため、焙煎温度が上がるほど反応は進みます。
焙じた茶には百を超える揮発性成分が含まれ、その中でもピラジン類が香りを左右する主要な成分だと、この研究は先行研究を引きながら述べています。
生まれる香りはピラジン類だけではありません。ゲラニオールやリナロールは、緑茶の中では糖と結びついた形で存在し、加熱でその結びつきがほどけると増えると報告されています。香ばしさだけでなく、花のような香りも焙煎の中で増えていきます。
