湯のみから立つ香りを成分の名前で言い直すのに、どれくらいの手間がかかるのか。研究の側から見ると、それは香りを分け、嗅ぎ、数えるという長い工程になります。
香りを取り出し、人の鼻と成分分析で調べる方法を、1973年以降の報告からたどります。一本ずつが何を使って何を測り、どこまでを結論としたのかを見ていきます。
1973年に、21のピラジンが並んだ
石川県工業試験場の総説によれば、山西らは緑茶と、200℃で数分間焙煎したほうじ茶の香気成分を比べ、ほうじ茶が21種類のピラジン類を含み、それらが焙煎で著しく増加したことを1973年に報告しています。同じ年、原らはほうじ茶に、焙煎で生成するピラジン類、ピロール類、フラン類が多く含まれることを報告しました。
1999年の報文も、山西らがほうじ茶の香気から66の化合物を同定したと紹介しています。香りの骨格は、半世紀前におおよそ描かれていました。
取り出し方が変われば、出てくる成分表も変わる
1999年の報文は、それまで茶の香気濃縮物の調製に使われてきたSDE法や減圧蒸留法について、水溶性の揮発性成分が回収されにくい、試料をつくる段階で葉の中の成分が変わってしまうといった欠点があり、飲むときの香気パターンを調べるには不適切だと述べています。そこで、浸出液を有機溶媒で抽出する方法に切り替えました。
農研機構が焙煎した茶を調べたときは、茶200gから減圧蒸留と高真空蒸留で香気エキス0.1mLを取り、ジクロロメタンで10倍、100倍、1000倍、10000倍に薄めました。石川県工業試験場の棒茶の研究では、抽出液に攪拌子を入れて成分を吸着させ、加熱して脱着させています。市販品を何点も比べるときは、粉砕した茶葉0.5gを80℃に温めたバイアルの空気から30分かけて集めました。
どれが正しいという話ではなく、何を取り出せる方法かが違います。成分表を読むときは、その手前の抽出法まで込みで見ることになります。
